「どんなヒヤリハットが多いのか? どう指導に落とし込むのか?」に答える事例集です。通勤・交差点・右左折・駐車・夜間や悪天候などの場面ごとに、事例/原因/回避行動/指導ポイントを簡潔に整理。KYT(危険予知)や安全運転指導のコツ、ドライバーが落ち込む際のフォローやヒヤリハットの継続運用のコツも解説します。
なお、報告書のフォーマットや書き方・提出手順は以下の記事で詳しく解説しています。

事故を未然に防ぐ!ヒヤリハット報告書の書き方と実践的な活用方法
ヒヤリハット報告書の重要性と書き方を解説。事故を未然に防ぐための具体的な活用法や実践的な対策を紹介します。報告書の書き方、例文、安全管理体制強化に役立つポイントを詳しく解説。
ヒヤリハットとは?定義・事故との関係
ヒヤリハットは「事故の一歩手前」で起きる運転上の危険事象。頻度は高く、被害は小さい一方、放置すると重大事故につながる“兆候データ”です。組織的に収集・共有・指導へ展開することで、事故の芽を手前で刈り取ることができます。
ヒヤリハットとは、事故や違反には至らなかったものの、ヒヤリとした、ハッとしたと感じる危険な出来事を指します。目的は事実の記録よりも、再発防止の知見化にあります。
- 頻度が多い:交差点・右左折・駐車・合流・通勤時など日常に埋もれる
- 被害は軽微:未然で止まるが、背景要因は事故と同質
- 学習素材:安全運転指導の“生きた教材”になる
事故との関係:ヒヤリハットは“前兆の集合知”
運転事故は単発の偶然ではなく、小さな見落としや判断遅れの累積で生じます。ヒヤリハットを継続的に集めると、
- 時間帯・地点・シーン(例:朝の通勤帯、T字交差点右折、構内バック)
- 共通の人間特性(例:急ぎ・思い込み・過信・注意散漫)
- 車両・環境条件(例:雨天夜間・逆光・死角・路面状態)
といった再発のパターンが見え、指導の優先順位が明確になります。
例:右直事故リスクの高い交差点で「対向直進の見落とし」が多発 ⇒ 減速基準と目視手順を標準化し、現地指導へ。
よくある誤解と正しい運用
-
誤解1:ミスの告白=個人の責任追及
→ 事実と行動に焦点を当て、人格評価はしない。心理的安全性を担保するほど、データが集まり質が上がる。 -
誤解2:件数が多い=悪いこと
→ 多いほど芽の早期発見ができる。改善のPDCAを回せる良いサイン。 -
誤解3:文章で長く書くほど良い
→ 短文・要点型(事例/原因/回避/学び)がベター。タグ付けで集計可能にする。
収集の基本:短文・匿名・週次共有で“多く・速く”
組織に定着させる最短ルートは、入力負荷を極小化すること。
- 30秒入力フォーム(日付・シーン・状況・危険要因・回避・タグ)
- 匿名可(責めない文化を制度で担保)
- 週次の共有会で3件ピックアップ(学びを言語化して“使われる知見”に) この設計により、事例集として蓄積されます。
次章から、通勤/交差点(直進・右左折)/駐車・後退/合流・渋滞/夜間・雨天/注意散漫といったシーン別に、代表事例/原因/回避行動/指導ポイントを表で整理します。
シーン別:運転のヒヤリハット事例集(代表例/原因/回避行動/指導ポイント)
ヒヤリハットは「場面×行動」の癖として繰り返されます。本通章では、勤/交差点(直進・右左折)/駐車・後退/合流・渋滞/夜間・悪天候/注意散漫の6カテゴリで、代表事例→原因→回避行動→安全運転指導ポイントをテンプレ化。各カテゴリごとに共通指導の要点を付記し、教育現場でそのまま使える「事例集」になっています。
通勤中に多いヒヤリハット(時間的切迫・見落とし)
代表事例
-
信号の変わり目で進入し、横断者に気づくのが遅れた
- 事例:青点滅〜黄で加速し交差点へ。横断開始の歩行者に気づくのが遅れブレーキ。
- 原因:到着時刻への焦り/「行けるだろう」思い込み。
- 回避行動:黄信号=止まる準備を基本に、手前で速度を整える。
- 指導ポイント:「黄色は減速必須」の言語化と、出発時刻の前倒し運用。
-
路肩のふらつく自転車に接近し過ぎた
- 事例:通勤帯の幹線。スマホ操作の自転車が蛇行、側方間隔不足。
- 原因:速度差の過小評価/自転車の軌跡を直線視。
- 回避行動:減速、追い越しは見通しの良い直線のみ。
- 指導ポイント:自転車の動きは「予測不能」として扱う教育。
-
霜・朝露・曇りで視界が狭いまま走り出した
- 事例:出庫直後、フロント曇りで歩行者に気づくのが遅れた。
- 原因:出発直後の視界クリア処置の省略。
- 回避行動:デフロスター/解氷スプレーの起動→視界完全確保→発進。
- 指導ポイント:「視界0なら速度0」をスローガン化し点呼で確認。
-
駅前送迎での急停車・ドア開放で二輪と接触しそうになった
- 事例:乗降のため右側ドア開放、後続二輪の接近を失念。
- 原因:停車位置の不適切/周囲確認不足。
- 回避行動:停車許可エリア選択→ハザード→後方確認→乗降の標準化。
- 指導ポイント:駅前の乗降手順の標準化。
まとめ表(通勤)
シーン | 状況 | リスク | 回避行動 | 指導ポイント |
---|---|---|---|---|
変わり目信号 | 黄で進入 | 横断開始の歩行者 | 事前減速・停止準備 | 「変わり目=減速」徹底 |
路肩自転車 | 蛇行・スマホ | 側方接触 | 減速・追い越しは見通しの良い直線 | 自転車=予測不能 |
出庫直後 | 霜・曇り | 視認遅れ | 視界完全確保後に発進 | 視界0なら速度0 |
駅前送迎 | 急停車・開扉 | 後続二輪と接触 | 許可エリア+後方確認 | 乗降手順の標準化 |
交差点(直進・右折・左折)のヒヤリハット(事故が多い典型)
-
右直対向の見落とし(右折時)
- 事例:対向直進の陰に隠れた二輪を見落とす。
- 原因:対向車の死角/急いで頭から曲がる。
- 回避行動:停止線手前で減速→頭出しすぎない→対向“二輪”を優先確認。
- 指導ポイント:右折3拍子「速度ゼロ→首振り→徐行開始」。
-
左折巻き込み(自転車・歩行者)
- 事例:左後方自転車を見落とす。
- 原因:左ミラーのみで目視不足。
- 回避行動:安全確認は①ルームミラー目視②サイドミラー目視③死角部分を目視。
- 指導ポイント:安全確認の3点確認を標準化
-
右折レーン誤進入→車線変更で接触寸前
- 原因:案内標識の見落とし/遅すぎの進路変更。
- 回避行動:300m前から予告→合図→ミラー→目視→ゆるやかな変更。
- 指導ポイント:「レーン変更は“早めに、ゆっくり”」。
まとめ表(交差点)
シーン | 状況 | リスク | 回避行動 | 指導ポイント |
---|---|---|---|---|
右折 | 対向直進二輪 | 右直事故 | 停止→首振り→徐行 | 右折3拍子 |
左折 | 巻き込み | 人身 | ルームミラー→サイドミラー→死角の目視 | 3点確認 |
進路誤り | 右折帯誤進入 | 接触 | 早め予告・緩やか変更 | 早めにゆっくり |
駐車・後退・構内走行(低速でも重大な人身リスク)
-
バックモニター過信で斜め後方の歩行者見落とし
- 原因:画角外の死角/目視省略。
- 回避行動:目視→モニター→再目視
- 指導ポイント:モニターは補助、主役は目視。
-
切り返し時の斜め前方接触
- 原因:切り返しの前輪軌跡を軽視。
- 回避行動:前輪の“振れ”を意識、輪止め・ポール距離を意識。
- 指導ポイント:前・後輪の軌跡図で教育。
-
駐車場内優先意識の欠如
- 原因:合図省略/人優先の徹底不足。
- 回避行動:徐行10km/h未満+合図+一時停止。
- 指導ポイント:「駐車場内は歩行者ファースト」を標語化。
まとめ表(駐車・後退)
シーン | 状況 | リスク | 回避行動 | 指導ポイント |
---|---|---|---|---|
後退 | 画角外に人 | 人身 | 目視→モニター→再目視 | 補助=モニター |
切り返し | 前輪の振れ | 物損 | 前輪軌跡の意識 | 軌跡図で教育 |
駐車場内 | 合図省略 | 人身 | 徐行+合図+一時停止 | 人優先の徹底 |
車線変更・渋滞時(速度差・死角の管理)
-
渋滞末尾での急減速・追突されかけ
- 原因:視線が近すぎる/早期認識不足。
- 回避行動:先読みブレーキ(早めの軽い減速)+ハザード。
- 指導ポイント:ハザードの“予告灯”活用を明文化。
-
二輪のすり抜けとドア開放のニアミス
- 原因:停車時の後方確認欠落。
- 回避行動:ドア開けは後方確認必須。
- 指導ポイント:開扉=後方確認の標準化。
まとめ表(合流・渋滞)
シーン | 状況 | リスク | 回避行動 | 指導ポイント |
---|---|---|---|---|
渋滞末尾 | 認知遅れ | 追突 | 先読み減速+ハザード | 予告灯の活用 |
停車開扉 | 二輪すり抜け | 接触 | 後方確認 | 開扉=後方確認の標準化 |
夜間・雨天・冬季(視認性低下×路面リスク)
-
夜間のダークウェア歩行者の見落とし
- 原因:背景と同化/対向車ライトのグレア。
- 回避行動:ロービームの正しい照射角+速度控え目+横断帯手前での減速。
- 指導ポイント:「見えない前提」運転を徹底。
-
雨天の水膜・ハイドロに気づかず直進
- 原因:タイヤ溝管理不足/速度過多。
- 回避行動:路面状況で速度調整、轍(わだち)回避、タイヤ点検。
- 指導ポイント:雨天時の危険事項の教育、季節単位でのタイヤチェック・教育。
-
降雪・凍結での制動距離誤算
- 原因:乾燥路と同じ感覚/車間不足。
- 回避行動:車間倍増、ゆっくりブレーキ。
- 指導ポイント:制動距離の体感教育(社内研修・動画活用)。
まとめ表(夜間・悪天候)
シーン | 状況 | リスク | 回避行動 | 指導ポイント |
---|---|---|---|---|
夜間 | ダークウェア | 見落とし | 照射角適正+減速 | 見えない前提 |
雨天 | 水膜 | 逸走 | 速度調整・溝点検 | 季節点検 |
冬季 | 凍結 | 制動不足 | 車間倍増・ゆっくりブレーキ | 体感教育 |
注意散漫・ヒューマンファクター(人は必ずミスをする)
-
運転中の端末操作/カーナビ操作で前車の減速に反応遅れ
- 原因:視線逸脱/複数課題処理の限界。
- 回避行動:操作は停車中のみ、音声操作の活用。
- 指導ポイント:端末は助手席保管・触らないルールを明文化。
-
会話・同乗者対応で確認手順が崩れる
- 原因:注意資源の分散。
- 回避行動:合図→ミラー→目視の声出し確認。
- 指導ポイント:「確認は声に出す」で手順の外化。
-
“慣れ”による過信(ホーム区間での速度超過)
- 原因:習慣化バイアス/リスク過小評価。
- 回避行動:区間ごとの減速ポイントを事前に宣言。
- 指導ポイント:「慣れた場所ほど注意」をスローガン化。
まとめ表(注意散漫)
シーン | 状況 | リスク | 回避行動 | 指導ポイント |
---|---|---|---|---|
端末操作 | 視線逸脱 | 追突 | 操作は停車中 | 触らないを明文化 |
会話 | 手順崩壊 | 見落とし | 声出し確認 | 手順の外化 |
慣れ | 速度超過 | 判断遅れ | 減速宣言 | 慣れ=危険 |
ドライバーが「落ち込む」ケースへのフォローと事例の継続収集
ヒヤリハットは“学びの素材”。責めないフィードバックと継続的に集まる仕組みづくりが定着の鍵です。本章では、落ち込み時の声かけテンプレと面談フレーム、現場での収集オペレーションと発掘のコツを提示します。
事例収集オペレーション:短文・匿名・週次共有で“継続性”を担保
“多く・速く・痛みなく・続く”を満たすためにフォーム最小化、共有の型を具体化します。
入力フォームの最小項目(30秒で書ける)
- 日付/時間帯(通勤帯/日中/夜間)
- シーン(通勤・交差点右折・左折・駐車後退・合流・渋滞末尾・夜間・雨天・凍結・注意散漫)
- 状況(短文):例「対向二輪の見落とし」
- 危険要因(選択):死角・速度差・注意散漫・視界不良・路面
- 回避行動(短文):例「停止→首振り→徐行」
実装のコツ:選択式を多用し、自由記述は少なく。匿名可で心理的安全性を制度化。
週次共有の型
- 月曜朝に前週の学びが大きい3件を選定(再現性・影響範囲・具体性で評価)
- 1件=90秒で共有:場面→危険→回避→学びの4点読み上げ
- 写真やイラストを1枚投影し、「何が見えない?なぜ?次は?」の3問で全員発言
事例発掘のトリガー(いわゆる“ネタ切れ”を防ぐ運用)
- 時節×環境:梅雨・台風・初雪・年度末・行楽期などのシーズナルトピック
- 地理×構造:見通し悪いT字、駅前ロータリー、工場出入口、通勤で多い地点
- 人×行動:新人帯同、夜間の疲労、慣れ区間での速度上振れ
- 装備×車両:タイヤ溝、ライト照射角、バックモニタの死角
編集カレンダー:月ごとにテーマ(夜間/雨天/合流など)を先出しして収集を先導。
イラスト化:テーマに沿い4象限テンプレで作図。
次章では、集めた事例を安全運転指導へ落とし込み、KYT・チェックリスト・評価指標まで繋げます。
安全運転指導への落とし込み(KYT・指導計画・評価)
集めたヒヤリハット“事例”を、KYT(危険予知訓練)、安全運転指導に接続してはじめて“交通安全”は定着します。本章では、短時間で回るKYTの型、面談スクリプトを紹介します。現場でそのまま使える表・テンプレで、安全運転指導の標準化を目指しましょう。
KYT(危険予知訓練)の基本設計:朝礼KYTの型
“事例集”を学習に変える最小単位の手順を定義。時間制約がある現場でも短く・深く・続く形に最適化します。イラスト活用(4象限)で理解速度も高めます。
朝礼KYT(1分)
- 画像/イラスト提示(10秒):場面を一目で把握(交差点右折・通勤・駐車・合流・夜間/雨天など)
-
3問で全員発言(40秒)
- 何が見えない/見えにくい?
- なぜ見えない?(速度・視線・死角・環境)
- 次はどう回避する?(合図・減速・車間・手順)
- 指導者の要点まとめ(10秒):注意するポイントを指導
イラスト化のコツ:危険領域を赤ハッチ、歩行者・自転車の進路矢印、運転者の首振りアイコンで目視動作を表現(画像検索面の露出も意識)。
安全運転指導の運用:10〜15分の“型”
心理的安全性を保ちつつ行動に落とす。事実→原因→対策→次回目標の順で型化することで指導に一貫性を出しましょう。
面談シート(テンプレ)
項目 | 記入例 |
---|---|
事実(中立語) | 朝の交差点右折、対向二輪の見落としで急制動 |
原因 | 急ぎ/対向車の死角/首振り不足 |
対策 | 停止→首振り2回→徐行開始 |
次回の行動目標 | 今週5回の右折で発声確認 |
フォロー予定 | 1週間後に再面談、実施率○/△/×で確認 |
スクリプト(そのまま使える言い回し)
- 「事実だけ並べよう。何が見えにくかった?」
- 「できた場面も確認しよう。何が効いた?」(成功の抽出で再現性を作る)
車両の安全対策には「MIMAMO DRIVE」がおすすめ
車両の安全対策において、ヒヤリハットを活用するためには、危険要因の明確化と従業員間での情報共有、安全管理のルール徹底が重要です。安全運転の促進と業務効率化には「MIMAMO DRIVE」のシステムが役立ちます。
このシステムでは、リアルタイムで車両の位置や運転状況を管理でき、急ブレーキや急カーブなど危険運転の発生も記録されるため、従業員に安全運転を指導する材料としても活用可能です。また、データを共有することで、組織全体で安全意識を高め、事故の防止につなげられます。
- MIMAMO DRIVE 資料紹介
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MIMAMO DRIVEは社有車に関する “経営者” “車両管理者” “運転者”皆様のお困りごとを解決する、 車両管理・リアルタイム動態管理サービスです。サービスの概要や主な機能、活用事例を簡単にご紹介しています。サービスの導入をご検討されている皆様にぜひご覧いただきたい資料になります。
まとめ
通勤の信号、交差点の右折、構内の後退、日常の運転は小さな分岐の連続です。ヒヤリハット事例は、その分岐で生じた“かすかなズレ”の記録です。事実をたどり、原因を言葉にし、次の一歩を具体化する、それだけで交通安全は前に進みます。肩越しにもう一度確かめ、信号の変化に合わせて速度を整え、曲がり角では呼吸をひとつ置く。小さな所作の積み重ねが、明日の無事故をつくります。
本事例集は、通勤から夜間・雨天まで現場視点で作成しました。図やイラストで「どこが見えにくいか」「どう動けば避けられたか」を共有すれば、安全運転指導は抽象から具体へ、個人の反省は組織の学びへ変わります。学びを持ち寄り、行動を試す、その循環が続けば、ヒヤリハットは“叱責の材料”ではなく“改善の燃料”になります。