デイサービスや介護施設の送迎中に発生する事故は、利用者の安全だけでなく、事業所の信用や運営にも大きな影響を与えます。近年は送迎ドライバーの人手不足や利用者の重度化が進み、現場では「ヒヤリとする場面が増えた」と感じる管理者も少なくありません。本記事では、デイサービス送迎で起こりやすい事故・トラブルのパターン、その背景にある組織的な課題、事故発生時の責任の考え方を整理したうえで、今日から実践できる安全対策と、車両管理サービスを活用した運行管理のポイントを解説します。
デイサービス・介護施設で送迎事故が増える背景
高齢化の進展により、通所介護や通所リハビリテーションなどの通所系サービスを利用する高齢者は増加し続けています。それに伴い、朝夕の送迎は多くの事業所にとって「毎日必ず発生する中核業務」となりました。送迎は時間にすると短く見えるかもしれませんが、一日の始まりと終わりに位置しており、そこでトラブルが起きるとその日全体の運営に影響が及びます。
近年、送迎車の事故や、送迎時の転倒・転落などがニュースや行政資料で取り上げられる機会も増えています。「デイサービスの送迎中に骨折」「送迎車が住宅に接触」といった報道は、利用者や家族に不安を与え、介護事業者への視線を一層厳しいものにしています。介護サービスが生活を支えるインフラである以上、サービス提供中の事故は「本来防げたのではないか」という期待も込めて注目されやすくなっています。
現場側の環境にも変化が生じています。多くの事業所では、介護職員・看護職員・送迎ドライバーの確保が難しく、「送迎専任」を置けない状況が続いています。その結果、介護職員が施設内のケアと送迎業務を兼務したり、限られた人数で複数ルートを回ったりせざるを得ないケースが増えています。こうした状況下では、どうしても下記のような負荷が生じます。
- 一便ごとの時間的な余裕が少なくなる
- 送迎の合間に記録やケアを行う必要があり、注意が分散しやすい
- 新人や応援職員が十分な引き継ぎを受けられない
加えて、利用者の状態も変化しています。要介護度の高い方や認知症の方、車いすや歩行器を利用される方が増え、送迎時に求められる配慮のレベルは年々上がっています。わずかな段差や舗装の傾斜、乗降時の声かけの有無が、転倒のリスクや不安感の増加につながる場面も少なくありません。
このように、利用者数の増加、人員・時間の制約、利用者像の変化が重なり合うことで、デイサービス・介護施設の送迎は、従来以上にリスクの高い業務となりつつあります。
デイサービス送迎で起こりやすい事故・トラブルの種類
送迎に関するトラブルの多くは、「いつも通り」の業務の延長線上で起こります。大きな交通事故だけでなく、少しのきっかけで利用者が転倒する、連絡の行き違いで送迎が遅れるといった事態も、利用者や家族から見れば重大な出来事です。
車両事故:追突・接触・バック事故など
まずイメージしやすいのが、車両そのものの事故です。送迎車は住宅街の細い道路や、利用者宅の前のわずかなスペースなど、運転が難しい環境で頻繁に出入りします。視界が限られた場所でのバックや、朝夕の混雑時間帯の右左折は、接触や追突のリスクが高い場面です。
時間に余裕がないと、「早く次の利用者のところへ向かわなければならない」という焦りから速度が上がり、目視やミラーによる確認が不十分になりがちです。送迎ルートやスケジュールが見直されないまま利用者数だけが増えていくと、同じ運転者に負荷が集中し、ミスが起きやすい状態が常態化してしまうおそれがあります。
乗降時の転倒・転落
送迎時の事故として軽視できないのが、乗り降りの瞬間の転倒・転落です。ステップの高さが利用者の足の上がりと合っていなかったり、雨の日に足元が滑りやすかったりすると、数センチの段差でも転倒のきっかけになります。
乗降時事故は、場面ごとの「よくある要因」と「基本対策」を整理しておくと、職員間での共通理解が進みます。たとえば、次のような整理が考えられます。
| 場面 | よくある要因 | 代表的な対策 |
|---|---|---|
| 乗車時のステップ昇降 | 段差への気付き不足/足元の不安定さ | 正面からの声かけ、足元の指差し確認、手すりの活用 |
| スロープでの車いす移動 | スピードの出し過ぎ/傾斜の読み違い | 低速での操作、二人介助の検討、事前の路面確認 |
| 降車後の歩行開始 | 周囲状況の把握不足/早歩き | 一呼吸おいてから歩行開始、歩幅やスピードの調整 |
このように整理しておくことで、日々のミーティングや研修で具体的な対策を共有しやすくなります。
車内での転倒・急ブレーキに伴う負傷
走行中の車内でも、さまざまなリスクがあります。シートベルトを着用していても緩んでいると、急ブレーキで体が大きく前方へ移動し、頭や肩をぶつける可能性があります。座った状態を保つことが難しい方の場合、カーブのたびに身体が傾き、肘や頭を車内にぶつけてしまうこともあります。
認知症のある方が、目的地に着いたと勘違いして走行中に立ち上がろうとすることもあります。運転者が運転に集中しつつ車内の様子も把握するのは難しく、同乗職員との役割分担や座席配置の検討が欠かせません。
送迎時間の遅延・迎え間違いなどの運行トラブル
事故とは別に、運行上のトラブルも事業所にとって頭の痛い問題です。渋滞や利用者の急な体調変化などで送迎時間が大きく遅れると、家族からの問い合わせや苦情が増え、職員側のストレスも高まります。
また、当日のキャンセル情報が十分に共有されておらず、不要な送迎に出てしまったり、利用者宅を間違えたりするケースも起こり得ます。こうしたトラブルは、送迎ルートや当日の出欠情報が個人の記憶や紙のメモに依存している場合に発生しやすく、仕組みとしての見直しが求められます。
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なぜ送迎事故は発生するのか|施設側の課題と根本原因
送迎事故が起きたとき、「もっと気をつけていれば防げた」と個人の注意力の問題として片付けてしまうと、再発防止策が「気をつけましょう」という精神論で終わってしまいます。本当に見直すべきは、職員が安全に仕事を進められるよう支える組織としての仕組みです。
業務の属人化と情報共有不足
送迎ルートや利用者ごとの注意点が、特定のベテランドライバーの頭の中に集中しているケースは多く見られます。その人が休んだり異動したりすると、代わりの職員がスムーズに引き継げず、ミスや遅延が発生しやすくなります。
利用者の状態変化や家族からの要望が口頭だけで伝えられている場合、時間が経つにつれて情報が抜け落ちたり、担当者によって認識がばらついたりします。その結果、乗降介助の方法や声かけの内容が職員ごとに違い、利用者側にも不安を与えてしまうことがあります。
送迎前チェック・運行管理の形式化
送迎前に行うべき車両点検や利用者の出欠確認、ルートの見直しは、本来、事故を未然に防ぐうえで欠かせないプロセスです。しかし、忙しい現場ではチェックシートへの記入だけが目的化し、実際には十分な確認がされていないこともあります。
さらに、当日の出欠やキャンセル情報が紙のメモやホワイトボードに手書きされているだけだと、変更があった際に最新版がどれなのか分かりにくく、古い情報に基づいて動いてしまうリスクがあります。運行を「感覚」で組み立てるのではなく、「誰が見ても同じ情報になる形」で管理することが重要です。
ドライバー教育・指導体制の不足
送迎ドライバーには、運転技術だけでなく、高齢者や認知症の方への配慮、車いすや福祉機器の取り扱い、家族や近隣住民とのコミュニケーション能力など、多様なスキルが求められます。しかし、日々の業務に追われるなかで、体系的な研修や振り返りの機会を十分に設けられていない事業所も少なくありません。
経験を積むこと自体は重要ですが、「見て覚える」だけに頼ると、誤った方法がそのまま受け継がれてしまうおそれがあります。どの方法を標準とするのかを明確にし、定期的に確認・更新する場を設けることで、送迎スキルの底上げにつながります。
デイサービスにおける事故時の責任範囲と施設運営への影響
送迎中の事故が発生すると、「誰の責任になるのか」「どこまで対応すべきか」といった点が問題になります。ここでは一般的な考え方を整理しますが、個別の事案については、法令や契約内容、事故状況によって判断が分かれるため、専門家への相談が必要となる場合もあります。
送迎中の事故は誰の責任になるのか
送迎中の事故は、大きく自動車としての事故と、介助中の事故に分けて考えることができます。前者は、他車両や歩行者、物との接触など、道路上での交通事故として扱われるものであり、後者は、乗降介助や車内見守りの際の転倒・転落などが該当します。
自動車事故については、道路交通法などに基づき、運転者の責任や車両の保有者の責任が問われるのが一般的です。送迎が事業として行われている場合には、事業者に使用者責任が及ぶケースも考えられます。介助中の事故については、事業者の安全配慮義務の観点から、介護サービス提供中の事故として扱われる場合があります。
いずれの場合も、どのような危険を予測し、どの程度の対策をとっていたかが重要なポイントとなります。関連する制度や基準は変更される可能性があるため、最新の情報を確認しつつ、保険や社内規程を整備しておくことが大切です。
事故発生時の対応フロー
事故が起こった際には、慌てずに一定の手順に沿って対応することが重要です。事業所としては、少なくとも次のような流れをあらかじめ整理しておくと安心です。
- 利用者や周囲の安全確保・救護(必要に応じて救急要請)
- 警察・関係機関への連絡
- 事業所管理者への報告と指示の確認
- 家族・関係事業所への連絡
- 事故状況・対応内容の記録
- 事後の振り返りと再発防止策の検討
これらをマニュアルとして文書化し、職員全員が把握している状態を維持することが、万一の際の混乱を抑えるポイントです。
事故が事業所に与える影響
事故が発生すると、利用者・家族からの信頼は揺らぎやすくなります。職員にとっても精神的な負担が大きく、「もう送迎に出たくない」と感じる人が出てしまう可能性があります。また、事故の内容によっては、行政への報告や説明が必要となる場合もあり、その対応に時間と労力が割かれます。
こうした影響を最小限に抑えるためには、事故が発生した後に適切な説明と再発防止策の検討を行うことが欠かせません。事故をきっかけに、送迎体制全体を点検し改善につなげていく姿勢が、長期的な信頼回復に寄与します。
送迎事故を防ぐための安全対策|今日から改善できるポイント
送迎事故をゼロにすることは簡単ではありませんが、リスクを着実に下げていくことは可能です。ここでは、特別な設備投資を行わなくても始めやすい対策を中心にご紹介します。
送迎前の「車両」「利用者情報」「ルート」の三点確認
送迎前の確認項目を細かく増やし過ぎると、現場では続きません。そこで、内容を「車両」「利用者情報」「ルート」の三つに整理しておくと、習慣化しやすくなります。
- 車両:タイヤや灯火類、バックモニター、燃料残量など、走行に関わる基本的状態
- 利用者情報:当日の体調、出欠・キャンセル、直近の転倒歴や医師からの指示など
- ルート:乗車順・降車順、所要時間、工事・渋滞情報など
この三点を毎回同じタイミングで確認するルールを定め、簡単なチェックシートに落とし込むことで、「気がついた人だけがやる確認」から「組織としての標準的な確認」に変えていくことができます。
乗降介助の基本と事故を防ぐポイント
乗降介助では、手順と声かけの統一が重要です。利用者に対して正面から目線を合わせ、「今からこの段差を上がります」「ここに手すりがあります」といった具体的な言葉を用い、次に何をするのかを明確に伝えます。
介助者の立ち位置や体の支え方も統一しておくと、利用者は「いつものやり方」として安心して身を任せやすくなります。車いす利用者の場合は、ブレーキをかけるタイミングやスロープの上り下りの速度、体を支える位置などを職員間で共通理解しておくことが欠かせません。
こうしたポイントを簡潔な手順書や写真付きのマニュアルにまとめ、朝礼やミーティングの場で繰り返し確認することで、職員全体の感覚をそろえていくことができます。
ドライバー教育:運転スキルだけでなく「介助スキル」
送迎ドライバーへの教育は、「運転マナー講習」だけで完結させず、介助スキルも含めた内容にすることが重要です。高齢者の身体機能や認知症の特性を知っているかどうかで、声かけや運転の仕方が大きく変わるためです。
たとえば、急な加減速や急ハンドルを避ける運転は、安全面だけでなく、乗車中の不安感を和らげる効果もあります。車内での会話のトーンや、到着時の挨拶・見送りの仕方も、利用者の一日の印象を左右します。こうした視点を織り込んだ教育を行うことで、ドライバーは「運転担当者」から「移動を支えるケアの担い手」へと意識を変えていくことができます。
業務振り返り・ヒヤリハット共有の仕組み化
事故の手前で起きたヒヤリハットを共有できているかどうかは、組織の安全文化を測る一つの指標になります。送迎終了後に数分でも振り返りの時間を設け、「今日はどんなことがあったか」「次に気をつけるべき点は何か」を短く共有するだけでも、気付きの質が変わってきます。
ヒヤリハットの記録方法は、紙の用紙でもシンプルなデジタルフォームでも構いません。形式よりも「書きやすさ」と「振り返る場があること」の方が重要です。月に一度程度、事例を持ち寄って共有する機会を設ければ、個人の経験がチーム全体の学びへと転換されていきます。
安全な送迎体制を支える車両管理システム(MIMAMO DRIVE)の活用
ここまで見てきたように、送迎事故を防ぐには、人の意識やスキルだけでなく、「仕組み」と「ツール」の支えが欠かせません。東京海上スマートモビリティが提供する「MIMAMO DRIVE」は、シガーソケット型端末を車両に取り付けるだけで、走行状況の可視化や日報の自動作成などを行える車両管理・リアルタイム動態管理サービスです。
位置情報・運転記録の可視化による安全運転促進
MIMAMO DRIVEでは、送迎車が今どこを走っているか、どのルートで移動したかを地図上で確認できます。さらに、急ブレーキや急カーブなどの運転挙動も記録されるため、個々のドライバーの運転傾向を客観的に把握することができます。
こうしたデータをもとに、「どの区間で急ブレーキが多いのか」「どの時間帯に渋滞しやすいのか」といった傾向を掴むことで、ルートの見直しや出発時間の調整など、具体的な改善策を検討しやすくなります。感覚的な指摘ではなく、数値や記録を根拠としたフィードバックができるため、ドライバー側も納得感を持って受け止めやすくなります。
送迎状況のリアルタイム把握とトラブル防止
管理者が車両の位置をリアルタイムで把握できると、送迎時間が遅れそうな場合に家族へ早めに連絡したり、急な利用希望やキャンセルに対して最も近い車を調整したりといった対応がしやすくなります。
また、事故や車両トラブルが発生した際にも、位置情報をもとに状況を把握し、別の車両の手配や現場への駆けつけなどを迅速に行うことが可能です。「今、誰が、どこを走っているのか」が見えることで、現場と管理者の双方が安心して業務にあたることができます。
導入事例(デイサービス・介護施設での活用イメージ)
MIMAMO DRIVEは、これまでに多様な業種の企業で導入されており、日報作成の自動化や車両管理の効率化に加え、急ブレーキ・急カーブなどの記録を活用した安全運転指導に役立てられています。デイサービスや介護施設においても、複数台の送迎車を運行している事業所であれば、位置情報の一元管理や運転状況の可視化による安全運転の促進など、多くの場面で活用が想定されます。
人手不足のなかで、限られた人数で送迎と施設内業務を両立させるための手段として、こうしたデジタルツールを検討することは、現場負担の軽減と安全性の向上の両方に貢献します。
- MIMAMO DRIVE 資料紹介
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MIMAMO DRIVEは社有車に関する “経営者” “車両管理者” “運転者”皆様のお困りごとを解決する、 車両管理・リアルタイム動態管理サービスです。サービスの概要や主な機能、活用事例を簡単にご紹介しています。サービスの導入をご検討されている皆様にぜひご覧いただきたい資料になります。
まとめ
本記事では、デイサービス・介護施設における送迎事故について、背景、起こりやすい事故・トラブルのパターン、組織的な課題、事故時の責任の考え方、そして具体的な対策とデジタルツールの活用までを整理しました。
送迎は、利用者の一日のスタートと終わりを担う重要な場面です。だからこそ、車両事故だけでなく、乗降時や車内での転倒、運行トラブルなどのリスクにも目を向ける必要があります。その背景には、人手不足や業務の属人化、情報共有・教育体制の不足といった組織的な課題が存在しており、個人の注意だけでは十分に対処できていないということがありました。
一方で、送迎前の「車両・利用者情報・ルート」の三点確認、乗降介助の標準化、ドライバー教育の充実、ヒヤリハットの共有といった取り組みを積み重ねることで、事故のリスクを着実に下げていくことは可能です。さらに、MIMAMO DRIVEのような車両管理サービスを活用すれば、運行状況や運転傾向を数字と記録で把握し、客観的な根拠に基づく改善につなげることができます。
すべてを一度に変える必要はありません。まずは、自施設の送迎体制を振り返り、「どこにリスクが潜んでいるか」「どこから手をつけると効果的か」を整理することから始めてみてはいかがでしょうか。そのうえで、現場の声とデータの両方を活かしながら、安心・安全な送迎体制づくりを進めていくことが、利用者と職員の双方にとって負担の少ない運営につながっていきます。